2015年に出した『My Life』のときのスタッフから、次はサックスのインスト・アルバムを出しませんかというリクエストをもらったところから、今回の『foot of the Tower』の制作がスタートしました。
以前に『藤井尚之ベスト SAX&SING』という歌とサックスの2枚組のアルバムを出したことがあって、それと同じように『My Life』は歌のアルバムだったから、今度はサックスのアルバムで、それこそ「昼と夜」ぐらいイメージの違う内容でカバーをやってみないかという提案をしてもらった。それまでソロで洋楽のカバーをやったことがなかったから、これは面白いことができるかなと思って、誰もカバーしたことのない曲をやるのもいいけど、どうせならみんなが知っている曲を面白いアプローチでやってみようと決めました。
最初に浮かんだのは、シンディ・ローパーの「Time After Time」だった。この曲は以前にイベントで演奏したことがあって、いつかもう一度やってみたいと思ってました。マイルス・デイヴィスもカバーしていて、「どうしてこんなにシンプルなのに、いい曲が作れるんだ、チクショー」と思っていたんだけど、でも今回吹いてみたらやたらと気持ちがよかったですね(笑)。
次にやることにしたのは、映画『禁じられた遊び』の主題歌の「Romance Anonimo」。クラシックギターの名曲なんだけど、サックスでやったら絶対に面白くなる。特にテナーサックスのイヤらしい音(笑)で吹いたら面白いと思っていたら、そのとおりになりました。ギターのメロディをサックスで吹くには、どうしても“エレキの元祖”ベンチャーズみたいなアレンジにする必要がありましたね。
グレン・ミラー楽団の「In The Mood」は、オフクロが好きな曲で、小さい頃、よく家で聴いてました。
今回は“楽団”の曲を、“バンド”でやったらどうなるかっていうテーマに挑戦してみた。難しかったけど、楽しかったですね。
このアルバムには、カバーの他にオリジナルが5曲入ってます。「sigh」は、自分の中で必ず欲してしまう空気感のある曲。好きなタイプの曲なので、自分を素直に出せました。「Gazing at the night bridge」は酒とタバコの香りがする曲で、夜をイメージしたこのアルバムにはなくてはならない曲でした。
面白かったのは「bittersweets」。これはソプラノ・サックスで吹くことを考えてストックしてた曲なんだけど、ソプラノだと普通に可愛い曲になってしまう。最近はテナーにこだわってもいいのかなって思っていて、今回はソプラノに逃げることを自分で禁じたんですよ。「俺はテナー吹きだ!」ってはっきり言ってもいいのかなと。それでテナーでやってみたら、テナーの持っている温かみがメロディに想像以上に合っていた。この曲をやってみて、自分の中で“メロディの在り方”が変わりましたね。それくらい発見のあったトライでした。
もう一つ試してみたのは、2本のテナーを使ったことかな。“テナー吹き”っていっても、「テナー1本」ってことじゃなくて、音色の違うテナーで同じメロディを吹いて比べて、いい方を選ぶ。こだわるのは“1本”じゃなくて、“テナーサックス”だった。
そういう意味で「俺はテナー吹きだ!」って堂々と言えるアルバムになりました。
アルバムの1曲目に映画『ミッション・インポッシブル』のテーマ曲「Mission Impossible Theme」をもってきたのは、誰でも知ってる曲だったから。みんなの知っている曲で、吹き方にこだわってみた。サックスには“ブロー奏法”っていうのがあって、割れてる音が出る。聴けばみんな知ってる音です。ただ、その奏法でずっと吹くサックス奏者はいない。
ちょっとくどいイメージがあるからかなあ(笑)。
でも普通に吹いたらこの曲の面白さがなくなるので、この曲は全面的にグロー奏法でやりました。
どんなカバーをやるのかっていうことを、1曲目で聴く人たちに伝えたかったんです。この曲の持っている力を利用させてもらいました。
そういうサックス奏者としての在り方を、アレンジャーの佐藤くんは細かく言わなくても分かってくれて、彼の選んだ若いメンバーと気持ちよくレコーディングできたアルバムです。
スタジオが東京タワーの近くだったので、レコーディングは東京タワーの足元に通う毎日。田舎から出てきた自分が、タワーが普通の景色になってるところでセッションして作ったアルバムなので、タイトルは『foot of the Tower』って付けました。
5月のツアーは『foot of the Tower』の曲がメインになります。でもアルバムの再現っていうより、その日その日で雰囲気の違うセッションになりそうなので、
リラックスして楽しんで下さい。
written by 平山雄一